書籍出版11冊。軸足はいつも「おうち」
ずらりと並んだ本は、全てパン・料理家 おうちパンマスター代表講師 吉永麻衣子さんの著書。
なんとそのうち4冊は、3人目のお子さんの妊娠中に出版したそう。
3人の男の子の育児真っ最中なのに、次々と新しいレシピを生み出し、
出版し続けられるのは何故?
どのようにして現在の働き方にたどり着いたのか、結婚・出産・子育てと環境が変化するなかでぶれずにいる軸とは?
パンとの出会いから出版裏話までをお聞きしました。
※2019年12月12日大手町で開催した【PowerWomenFes!2020】Specialステージトークのレポートです。
目次
- パンとの出会いは、折り込み広告
- 転機は二人目の出産。教室が続けられない…
- 忙しいママでもこれなら焼ける!おうちパンの誕生。
- 初出版の問い合わせは、食べられないパン?
- 続けることに価値がある。経験が次につながる。
パン・料理家。おうちパンマスター代表講師 吉永麻衣子さん
法人営業や営業戦略、新規事業立ち上げを経験後、パンの世界へ。
専門学校講師、カフェキッチン、日本ヴォーグ社ハッピークッキングの立ち上げ等経験し、自宅にてパン教室をスタート。
忙しいママも毎日焼けるパンが好評に。
現在は、外部での講師と、企業とのレシピ開発や雑誌へのレシピ提供、書籍の出版、コラムの執筆等、幅広く活動。
8歳(小学校2年生)、5歳(幼稚園の年長)、2歳、3人の男の子のママ。(2019年12月時点)
パンとの出会いは、折り込み広告
パンの仕事をする前は、新卒で入社した人材系の企業で法人営業をしていました。
始発で出社し帰りは終電、アフターファイブなんて皆無…と忙しく働いていました。
その後関西支社に異動し働き方がゆるやかに。
家暮らしになり時間ができたこともあり「何かやりたい」と思うようになりました。
そんなタイミングでたまたま新聞の折り込み広告で見つけたのが、天然酵母で焼くパン教室だったのです。
パンって自分で焼けるんだ、と驚き、さらに「自宅でパン教室を開きたい」という周囲の声を聴き、そんな働き方があるんだ!と、衝撃を受けました。
習ったレシピを伝えるパン教室は、特別な資格や保健所の許可も不要、今日からでも開けるということを知り「私にもできるかもしれない」と思うようになりました。
食の仕事は年を重ねることがマイナスにならない、そんなことも魅力に感じました。
当時は営業職。年齢や経験を積むことでの成長もある一方、30代を前にして体力的な不安や、今後子どもが生まれたらどうなるの?と、
結婚が決まっていたこともあり、先々の働き方になんとなく不安を感じ始めていました。
その後結婚を機に東京の本社へ戻りましたが、パン教室を開くことに気持ちが固まっていました。
転機は二人目の出産。教室が続けられない…
6年勤めた会社を退職し、食の道に進みました。
長男を出産後は自分も生徒さんも「子連れOK」のスタイルでパン教室を続けました。
長男だけのときは寝かせてしまえば自分の時間が持て、教室の準備をしたり、だましだまし続けられたのですが、次男が生まれたとたんに…すべてが崩壊しました(笑)
まずは時間がない。
ご飯を作る暇もなければ、パンを焼くこともできない。
家じゅう散らかり放題で、それを片付け、教室の準備をして生徒さんをお呼びする…という気力がわかなくなってしまったんです。
▲兄弟でも性格はまるで違う。パン教室の間おとなしく遊んでいた長男とは反対で、勝気な次男くんはおもちゃの取り合いになったりすることも…教室運営に集中できず、またわが子にも我慢をさせている状態を続けるべきか、吉永さんは悩んだと言います。
託児を入れるという方法もあったけれど、私は使いたくなかったんです。
夫婦の考えも、私自身の思いも、子どもを預けずに働きたいという希望がありました。
そしてそれができると思って自宅でのパン教室を開いていたので、パン教室を続けるために子どもたちをどこかに預けるという選択肢は私にはありませんでした。
会社に勤めたり、保育園を利用したり、色々な働き方があります。
そのなかで、どんな働き方を選ぶかは良い悪いではなく「自分がどうしたいか」も大きいと思います。
子どもたちが幼稚園に入るまでは一緒に過ごしながらパン教室を開く、それが私の望む働き方だったのです。
でも、この状態では自宅教室は続けられず、そうなると誰にもパンを伝えることができない…収入もなくなる…さて、どうしよう?と考えました。
忙しいママでもこれなら焼ける!おうちパンの誕生。
とにかく私はパンが大好きで、お惣菜を買ってくることに抵抗は無いのに、パンだけは自分で焼きたい!パンを焼くことが、自分が楽しく過ごすために外せないことでした。
一般的なパン作りの工程は、生地を捏ねたり発酵を確認したり、仕上がるまで3時間くらいかかります。
子育てしながらつきっきりで生地を見ることは難しいので、生地を冷蔵庫に寝かせておき、好きな時に焼くという方法をとっていました。
あるとき本当に時間が無いけどパンが焼きたくて…ふと、スティック型にしたパン生地をオーブントースターに入れて焼いてみたんです。
それが…すごくおいしかったんです(笑)
これが今私が伝えている「おうちパン」のヒントになりました。
これなら忙しいママでも家でパンが焼ける!このレシピを伝えていこう!と、自宅でのパン教室の回数を減らし、トースターやフライパンで焼く「おうちパン」のレシピをメディアに提供する仕事にシフトしました。
次男がいなかったら「おうちパン」も生まれていないでしょうし、今の働き方にも変化していなかったはずです。
▲おうちパンのレシピを使わせてほしいと、パン教室の先生からのリクエストが寄せられ、おうちパンを伝える認定資格「おうちパンマスター」の制度を整え、製菓・製パン材料・調理器具の通販サイト【cotta*コッタ】と共同運営している。写真は名古屋での「おうちパンマスター」との交流会。
初出版の問い合わせは、食べられないパン?
初出版のきっかけは、まだ二人目が生まれる前のことでした。
「本を出しませんか?」という突然の連絡に「詐欺かも?」と身構えましたが(笑)実際お会いしたらとても良い方でした。
小さなクラフトパンの本を企画されていて、私がブログに載せていた「クラフトパン」(マグネットやクリップにつけるおもちゃの飾りパン)の記事を見て連絡をくれました。
出版社の方の思いと私の伝えたいパン作りをお話をしながら折り合いをつけ、クラフトパンではなく「食べられるパン」の企画に変わりました。
パンは大きく焼いたほうが断然おいしいともお伝えしましたが「小さなパン」は譲れないテーマとのことで、初めての書籍『おいしい かわいい ちいさいパン』(2013年)ができ上がりました。
1冊目の出版経験があったので、2冊目以降は自分で資料を作って提案することができました。
「おうちパン」の手軽さや美味しさは子育て中の編集者さんにはスムーズに理解していただけましたが、決裁権を持っている方に企画を通さないと本は出せない。
編集者さんとたくさんの試行錯誤を繰り返し、最終的には編集者さんが会議室にトースターを持ち込んでパンを焼き、企画が通り、おうちパンのレシピ本を出すことができました。
1冊企画が通り売れることで、2冊目3冊目と次につなげることができました。
また、他の出版社はAmazonのランキングを見て別の出版社からもお声がけいただき、続けて本を出すこともでき、3人目の妊娠中に1年間で4冊出版をしました。
続けることに価値がある。経験が次につながる。
新卒から6年勤めていた会社はベンチャー気質で、起業家も多く輩出していました。
私も食の道に進むため退職するときに「世の中に影響のある人でいてね。」とメッセージをいただき、教室を開くだけではなく、いつか本を出したいという気持ちをずっと抱いていました。
クラフトパンはベビーマッサージの先生とコラボで作っていたもので、まさか出版につながるとは思っていませんでした。
1冊目の小さなパンの本も「本当は大きく焼いたほうがおいしいのに…」と思いつつも、与えられたテーマでその時の自分にできることを精一杯応えました。
実はその『おいしい かわいい ちいさいパン』を書店で見てくださったことがきっかけで、現在クックパッドTV(クッキング動画が生配信される無料アプリ)にも出演させてもらっています。
(https://www.cookpad.tv/programs/10054)
今振り返って、続けることに価値があるんだなと実感しています。
そして、一度、何か表に出せるとそこからチャンスが広がるのではないかとも思います。
こうやって人前でお話させていただくと、すごく華やかな活動だと思われることもありますが、パンのレシピ1つ作るのも、本当に地味な作業の繰り返しです。
正直大きなビジョンあって始めたわけではなく(笑)目の前のこと、地味なことをコツコツ積み重ねてきた結果、今の活動になってきた…という感じです。
子どもたちが大きくなり少しずつ自分の時間を持てるようになってきたので、次は色々と整えることを目標にしたいと思っています。
全国にいるおうちパンマスターにもどんどん会いに行きたいです!
【編集後記】
吉永さんがいつでも自由にパンを焼くことができる生活だったら決して生まれなかった「おうちパン」。
同じように家事や育児に忙しいけれど、大好きなパンを焼きたい、焼きたてのパンをおうちで楽しみたい、わが子に安心できるパンを食べさせたい、そう想いを同じくする人の手から手に、どんどん広がっています。
書籍を11冊出版し、おうちパンを伝える認定資格「おうちパンマスター」は全国に(海外にも)3,000人もいるという吉永さんを「特別な人」「自分とは別の世界の人」とフィルターをかけてしまってはもったいない。
どれだけ時間が無くても続けたい大好きなこと、これだけは譲れないという大切な軸があるなら、ぜひ吉永さんの言葉を胸に、コツコツ続けてみませんか。
吉永麻衣子さんの書籍一覧はこちら
https://yoshinagamaiko.com/work-publication-media
おうちパンマスターに興味がある方はこちら
https://yoshinagamaiko.com/work-cotta
撮影協力
- acca phot/ 寺嶋 綾香
https://www.instagram.com/_acca_photo_/ - kumiti_camera
http://www.instagram.com/kumiti_camera